摩季れい子の野球PNFトレーニング

摩季れい子の野球PNFトレーニング ベースボール・マガジン社 BaseballClinic
連載の一覧
第1回 野球における疲労とスポーツ障害
第2回 野球における肩関節の障害と機能チェック
第3回 野球におけるヒジ関節の障害と機能チェック
第4回 野球における腰痛と脊柱の機能チェック
第5回 野球における筋力トレーニングの理論と方法
第6回 野球における筋コンディショニングとストレッチ
第7回 PNFトレーニングの具体的方法(1)体幹の強化
第8回 トレーニングの方法(2)股関節と下半身の強化
第9回 トレーニングの方法(3)“カベ”をつくるPNF
第10回 トレーニングの方法(4)肩を強くするPNF
第11回 トレーニングの方法(5)投球腕をつくるPNF
第12回 トレーニングの方法(6)ヒジから先のPNF
第12回 トレーニングの方法(6)ヒジから先のPNF
第12回 トレーニングの方法(6)ヒジから先のPNF
第13回 トレーニングの方法(7)足と下腿のPN
第14回 バイオメカニクスに基づく打撃とPNF
最終回 ヘッドの速さと歩ワーを高める打撃のPNF
関西メディカルスポーツ学院
摩季れい子学長 公式サイト
MAKIサイエンスウェア開発研究所
関西メディカルスポーツ学院 硬式野球部
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第1回 野球における疲労とスポーツ障害

[1]はじめに [2]筋疲労が障害につながる [3]体幹と下肢の疲労度チェック

[2]筋疲労が障害につながる

1) 運動能力とは

運動を起こす。この生理は筋肉と神経の働きによるもので、より優れた筋肉と神経を持つことが、運動能力を高めることにつながります。
運動能力とは、いろいろな要素によって決まってくるものです。まず、大きな力を出し(筋力)、それを維持・持続させ(筋持久力)、筋肉の働きをコントロールしてうまく動くこと(神経筋調整力)。全身の血液の流れをよくし(血液循環)、呼吸により体内にO2を送って全身の筋肉から生まれた筋収縮後のCO2とのガス交換を行うこと(呼吸循環)。脳で考え(中枢神経)、その動きをするのに必要な筋肉に伝達し(末しょう神経支配)、素早く体を動かすこと(運動神経の発達)。あるいは関節可動域が広く、柔軟性があることなどが挙げられます。
運動を起こす要因は数多くありますが、ここではまず、骨を動かし関節を作用させる筋肉に目を向け、そのエネルギー産出系と筋疲労の原理について述べましょう。

2) 筋収縮のエネルギー

体を動かすために筋収縮、つまり筋肉が伸びたり縮んだりするためには、ATP(アデノシン三リン酸)という高化学リン酸結合物質が必要になります。このATPを再生していくために、CP(クレアチンリン酸)、グリコーゲン、脂肪、たんぱく質などが使われるわけです。エネルギーの効率性から見ると、CP、グリコーゲン、脂肪レベルでのエネルギー系を利用する運動が望ましいといえます。
エネルギー系には、三つの体系があります。(図B参照)

<図B> エネルギー供給のメカニズム

第一のエネルギーはATP-CP系で、このエネルギー系は大きなパワーを出すことができます。ただ、筋細胞中のATPとCPには限りがあって、すぐに枯渇状態になってしまい、持続時間が11秒前後と短いという特徴がありますので、短距離走などに向いていると言えます。
次に、筋細胞中のグリコーゲンが自ら解糖し、その解糖のエネルギーを利用してATPの再生のために使われます。この解糖系のエネルギーの持続時間は30秒前後で、ATP-CP系より少し長く持続できますが、やはり疲労は早く現れます(中間走向き)。
それから、グリコーゲン解糖系の際に十分なO2が代謝過程に関与すると、TCAサイクルに入り、エネルギーが限りなく作られます(長距離走向き)。この有酸素経路では、代謝産物である乳酸をエネルギーに変換させたり、H2OとCO2にまで酸化・分解することができます。この点で、グリコーゲンは効率のいいエネルギー物質と言えます。
しかし、運動レベルが高く、O2をまかないきれずにO2不足が生じると、乳酸が筋肉に蓄積されていきます。この乳酸などの代謝産物が筋肉の「こり」を招き、伸展性も失わせる原因になります。そして、筋肉中の血液循環と内呼吸能力も弱まり、エネルギー代謝が悪くなって全身・局所の疲労状態に陥っていきます。乳酸が多量に蓄積されれば(筋肉量の0.3パーセント以上)、収縮不能にまで至ることになります。

3) 筋疲労とスポーツ障害の発生

野球における投球、打撃、守備などの動作を繰り返し練習すると、局所的に同一部分を使うこととなります。当然、その部位の筋収縮は何度も行われるので筋肉中のO2不足が生じた結果、代謝物質が蓄積して筋肉の疲労状態を招き、収縮性が弱まったり、動きのパワーやコントロールの低下という状態になってくるわけです。これがオーバーユーズです。
疲労状態の組織に能力以上のストレスを与え、さらに無理な動きをしようとした場合、その筋肉や腱、腱付着部、骨、軟骨、関節包、靱帯といった運動器系に微細外傷や炎症が発生し、局所的な組織障害を招いてしまいます。そして、炎症の繰り返しが、さらに組織を悪化させ、局所的な拘縮、変性萎縮、瘢痕形成、変形などにつながり、機能低下を起こします。その状態でスポーツを継続して行えば、スポーツ障害(肉離れ、脛骨疲労骨折、腱炎、軟骨損傷、腱の付着部のはく離骨折、捻挫、筋断裂など)を発症する可能性が高くなります。

4) 強化とコンディショニング

野球におけるどうような動作も運動器官系(骨、筋肉、関節とそれを支配している神経)の円滑な動きがあってこそ成り立つわけですから、いい状態をキープしながらプレーできれば、技術を向上させることにもつながります。また、スポーツ障害・外傷を予防するためにも効果的なわけです。
それには、次の練習参加まで疲労を蓄積させた状態のままでいないように、ストレッチを十分行ったり、トレーニングの強度に適応できる体力を保持することが必要になります。要するに、強化とコンディショニングはともに行わなければ、強化のための練習がオーバーユーズを招き、逆に筋肉組織に悪影響を与えてしまうのです。ひいては神経の疲労も起こり、いいイメージのもとで筋肉の働きのコントロール(瞬発性筋肉のグラデーション・タイミング)も養えなくなってくるといえます。
パフォーマンス練習は、いい神経状態のなかで筋肉を収縮させ、感覚器官(反射)も十分に働くレベルの下で行うほうが、技能のアップにつながりやすいのです。

5) スポーツ障害の予防と指導者の役割

野球の指導者の方は、個人やチームのレベルアップを図るために、年間を通じて(シーズンオフ期、プレ期、シーズン中)基礎体力づくりから技術練習を組み込んだトレーニングを実施されていることでしょう。それら日々の練習プログラムで、選手の意欲、集中力、パフォーマンスが向上しているようであれば、各個人の内的要因・能力に適した内容だと思われます。しかし、逆に長時間の練習のわりには技術の上達がなかなか見られないとすれば、選手にとっては神経と運動器系のオーバーワークになっている可能性が高いと考えられます。
トレーニングのプログラム作成にあたっては、強度や時間、頻度はもちろんのこと、投球や打撃フォームのチェック、基礎体力づくり、コンディショニングの方法や休養、栄養面も十分に考慮する必要があります。さらに、選手の体力や疲労度、機能チェックを定期的に実施し、スポーツ障害の予防および再発防止にも留意してほしいと思います。
どれくらいの量(繰り返し)の練習を設定すればいいかというのは判断が難しいところですが、筋肉・関節の機能状態を把握する方法として、タイトネステストと脊柱機能テストが有効です。ここで紹介する体幹と下肢の疲労度チェック法を参考にし、異常が見られるようになったら、練習プログラムの改善を検討してみてください。

[3]体幹と下肢の疲労度チェック >>

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